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甲府地方裁判所 昭和48年(レ)5号 判決 1973年6月25日

第一審原告 竜王町

第一審被告 財団法人 山梨在郷軍人航空研究会

第一審参加人 国

訴訟代理人 太田陽也 外五名

主文

1  第一審原告の控訴を棄却し、当審における新請求を却下する。

2  第一審参加人の附帯控訴を棄却する。

3  控訴費用中、附帯控訴に関する分は第一審参加人の負担とし、その余は第一審原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  第一審原告

1  原判決の主文第一・二項を取消す。

2  (第一次請求…当審において追加)

第一審被告は、第一審参加人に対して、別紙目録<省略>の土地(以下、本件土地という。)について、売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3  (第二次請求)

第一審被告は、第一審原告に対して、本件土地について、時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

4  (第三次請求)

第一審被告は、株式会日立製作所(以下、訴外会社という。)に対して、本件土地について、時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

5  訴訟費用は、第一・二審とも第一審被告の負担とする。

二  第一審被告

第一審原告の本件控訴及び新請求を棄却する。

三  第一審参加人

1  原判決第三項を取消す。

2  第一審参加人と第一審原告との間において、本件土地が第一審参加人の所有であることを確認する。

3  第一審被告は、第一審参加人に対して、本件土地について、所有権移転登記手続をせよ。

4  参加による訴訟費用は、第一・二審とも第一審原告及び被告の負担とする。

第二主張<省略>

第三証拠関係<省略>

理由

(第一審参加人の地位)

独立当事者参加訴訟において、二当事者が敗訴し、その一方のみが上訴した場合、他の敗訴者が上訴審でいかなる地位に立つかについては、諸説が分かれているが、結局、いわゆる三面訴訟の当事者間には、相互に対立牽制の関係があることを重視すれば、民訴法七一条・六二条二項の規定によつて、その一人に対する相手方の訴訟行為は全員に対してその効力を生じ、敗訴者一方の上訴によつて、他の敗訴者はつねに被上訴人となるものと解するのが相当である。

従つて、第一審原告の本件控訴によつて、第一審参加人も被控訴人の地位に立ち、第一審参加人が昭和四八三月二〇日(控訴期間経過後である。)に提出した準備書面(控訴の趣旨が記載)は、附帯控訴状と解される。

(第一審原告の第一次請求)

第一審原告は、第一審参加人に代位して、第一審被告に対し、所有権移転登記手続請求をする。

ところで、債権者代位権は、債務者がみずから権利を行使しない場合に限つて許される権利であるが、第一審参加人は、すでに、右請求と同一の趣旨及び原因により、第一審被告に対し、本件参加訴訟を提起しているから、第一審原告に代位権を行使する適格がないことが明らかである。

従つて、第一審原告の第一次請求は、当事者適格を欠いている。

(第一審原告の第二次請求)

第一審原告は、昭和三二年三月以降現在まで本件土地を占有していると主張する。

しかし、<証拠省略>によれば、第一審原告は、昭和三二年三月以降本件土地およびその周辺の土地一帯を占有していたが、昭和三八年一一月ころ、同土地を訴外会社に売却して引渡し、以来本件土地は占有していないことが認められ、これに反する証拠はない。

そうすると、第一審原告は、その主張の一〇年間を通じて、本件土地を自主占有した事実はないから、その他の点を判断するまでもなく、第一審原告の第二次請求は理由がない。

(第一審原告の第三次請求)

第一審原告は、訴外会社に対し、不当利得返還請求権を有すると主張する。

しかし、仮に、訴外会社が第一審原告主張の経過で、本件土地所有権を取得したとしても、それは時効制度の結果であつて、法律上の原因のない受益とはいえないし、他面、これによつて第一審原告に損失を及ぼした事実の主張立証もない。

従つて、第一審原告は、訴外会社に対し、不当利得返還請求権を有すると認められないから、訴外会社の権利を代位行使する適格がなく、第三次請求も却下を免れない。

(第一審参加人の請求)

本件全証拠によつても、第一審参加人が第一審被告から本件土地を買受けた事実は、認定することができない。

次に、時効取得について判断する。

第一審参加人は、昭和二二年二月以降本件土地を占有し、その始め無過失であつたと主張する。

しかし、仮に、右時期以降の占有の事実が認められるとしても、第一審参加人が、本件土地を買収したと信じて占有を開始するに至つた経過が明らかでないので、第一審参加人に過失がなかつた事実は確定できない(土地の売買において、その対象を特定することは、登記簿や公図等の調査によつて、比較的容易になしうることであり、特に、国家機関が私人の土地を買収する際には、右の点につき、より慎重な調査が期待されてよい。本件において、第一審参加人が、買収の対象を誤解して、本件土地をも買収したと信じたことに、過失がなかつたとは、到底考えられない)。

従つて、第一審参加人の一〇年間の取得時効の主張は、理由がない。

また、第一審参加人は、二〇年間の取得時効をも主張するが、そのうち昭和二二年四月一日以降の本件土地の占有が、第一審原告を占有代理人とする間接占有であることは、自認するところである。

ところが、第一審原告の第二次請求において判断したとおり、第一審原告は、昭和三八年一一月ころ以降、本件土地を占有していないから、右二〇年間の取得時効が成立しえないことも明らかである。

以上のとおりで、第一審参加人の本件土地取得の原因は、いずれも認められないから、これに基く所有権確認及び所有権移転登記手続請求は、理由がない。

(むすび)

よつて、第一審原告の第二次請求及び第一審参加人の請求をいずれも棄却し、第一審原告の第三次請求を却下した原判決は相当であり、本件控訴及び附帯控訴は理由がなく、当審において追加された第一審原告の第一次請求は却下することとし、民訴訟三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本攻 春日民雄 山田吾一)

原審参加人の昭和四八年二月一九日付準備書面(同年三月一九日陳述)

第一控訴の趣旨

原判決を取消す。

控訴人国(以下単に「参加人」という)と控訴人竜王町(以下単に「控訴人」という)との間において、参加人が別紙目録記載の土地について所有権を有することを確認する。

被控訴人財団法人山梨在郷軍人航空研究会(以下単に「被控訴人」という)は、参加人に対し同目録記載の土地について所有権移転登記手続をせよ。

参加による訴訟費用は、第一・二審を通じ控訴人および被控訴人の負担とする。

との判決を求める。

第二控訴の理由

参加人主張の事実および証拠は、原判決事実摘示のとおりである。原判決は、事実認定を誤つたものであるから、控訴の趣旨記載のとおりの判決を求める。なお、控訴人が原判決に対し控訴したことにより、参加人が控訴人たる地位を取得したので(大判昭和一五年一二月一四日民集一九巻二四〇二頁参照)、本件控訴の趣旨および理由を述べる次第である。

原審参加人の昭和四八年三月一九日付準備書面

控訴人国が、本控訴審において、控訴人の地位を取得した理由は次のとおりである。

一 民事訴訟法第七一条の参加訴訟の法的構造が、三面訴訟であることは、通説、判例(最判昭和四二年九月二七日民集二一巻七号二三七頁)の認めるところである。すなわち、同条の参加訴訟は同一権利関係を巡つて、原被告および参加人の三者を互にてい立、牽制し合う関係に置き、三者が互に争う紛争を一個の訴訟手続によつて、一挙に矛盾なく解決しようとする訴訟形態であつて、参加の申出も常に原被告双方を相手方しなければならないし、また弁論の分離(民訴法一三二条)、一部判決(同法一八三条)も認められず、一の判決により訴訟の目的を三者につき合一的に確定しなければならないものである。

したがつて、敗訴者の一方のみが上訴した場合であつても、当然原審判決全部の確定が遮断され、事件の全体が上訴審に移審し、上訴しない他方の敗訴者も上訴審の当事者たる地位を取得するものとされている。(最判昭和四三年四月一二日民集二二巻四号一四五頁。)

ところで、上訴しない敗訴者が上訴審において上訴人の地位を取得するのか、あるいはまた、被上訴人の地位を取得するかについては、定説的見解はなく、また判例も確立されていない。この問題を考えるにあたつては、前述のとおり民訴法第七一条の参加訴訟が三面訴訟である限り、原審における三当事者対立構造を、上訴審に至つてにわかに上訴人と被上訴人の二当事者対立構造に置き換えるのは相当でないというべきである。

よつて、三面的な紛争を統一的に、一挙に矛盾なく解決するとの目的に照らせば、民訴法第七一条の参加訴訟の上訴審においては、当事者に原審の勝敗関係に対応して必要に応じ、上訴人であると同時に被上訴人でもあるという二面性を有する当事者たる地位を付与するのが、最も適切である。

二 そこで、右の理を本控訴審にあてはめるならば、次のとおりである。

すなわち、原審における勝敗関係について見るに、控訴人国(以下単に「参加人」という)は、控訴人竜王町(以下単に「原審原告」という)および被控訴人財団法人山梨在郷軍人航空研究会(以下単に「原審被告」という)に対して敗訴者たる地位にあり、原審原告は、参加人に対しては勝訴者、原審被告に対しては敗訴者たる地位にある。この勝敗関係に基づき実質的に判断すれば、本控訴審において参加人が原審原告および原審被告に対して、控訴人たる地位を取得することは明らかである。

けだし、参加人が被控訴人だとすれば、原審原告の本控訴に対して棄却を求めることになるが(これは全く無意昧なことだからである。ただし、参加人は、原審原告との関係においては形式的に被控訴人なる地位をも取得している。なぜならば、三面訴訟においては、その性質上敗訴者の一方が勝訴者のみを相手方として上訴することは許されないと解すべきであるので、原審原告は、参加人をも被控訴人として控訴しなければならないからである。もつとも、原審原告は、前述のとおり参加人に対しては勝訴者たる地位にあるから、本控訴審におい参加人との関係では何ら不服の申立をする必要がなく、また参加人も形式的に被控訴人たる地位にあればよいことになる。

以上の理由からして、本控訴審において、参加人は、控訴人たる地位を取得した(被控訴人たる一面性も兼有している)ものというべきであり、被控訴人たる地位のみを取得するいわれはない。

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